海の記憶 雪柳(S. Matsumoto)
ふるさとを想う時
思い出すのは いつも
海と 浜辺に響く笑い声
毎日のように 渚で潮風に吹かれて
波と 砂と 日暮れまで遊んだ
楽しかった幼い頃
その砂浜が
今は消えてしまっているという
遠い日の幸せとともによみがえる
懐かしい海の風景は
もうないのだ
昔の愉しかった時間もまた
流れ去って戻らない
まるで 夢で見た出来事
この世界に
永遠なものは何もない
生まれ出て うつろい 消えてゆく
皆 そのような存在
過ぎていったものは
もう会うことのないまぼろし
今在るものも 人も
それを映す心も
そのまま留め置く術はなく
存在すること 生きていることは
夕暮れがつくる影のように儚くて
寂しさに
悠久の時の 魔法や奇跡を
思い描いてみたりする
海は 姿を変えながら
それでも
ずっと波打っているだろう
生まれては消える そんな中の
もうひとりのわたしのような
誰かの記憶にも
きっと 同じ幸福な時間を刻むだろう
いつか未来の 時のどこかで
また会ったねと
懐かしげに
昔語りを聞かせるように
時が繰り返す はるかな物語の中で