幼少 秋さやか
夏草の匂いが
立ち込めて
体じゅうに充満していた
痛そうなほど
あかあかと滲む
夕暮れの空
皮膚に纏わりつく
生温い風が
自分と世界の境目を
絡めとってしまいそうで
逃げるように走り出せば
生い茂る夏草のなかへ
躊躇う間もなく転倒した
その先へ
放り出される虫かご
体の一部が
分解したような気がしたのは
虫かごを持っていたことを
忘れていたから
いま起きたことも
またすぐ忘れ
なにごともなかったように
立ち上がると
突き刺すような視線を
夕日に向けて
出口を探した
空がゆっくりと
瞼を閉じてゆく途中
どこかから
きこえてくる
遠汽笛
夏草の匂いが
いっそう濃くなる
震える鼓膜
を伝わって
震え出す胸の奥
また
置いて行かれてしまう
最後に見た
母さんの顔は
笑っていただろうか
泣いていただろうか
叫びたい衝動を押し込めて
捕まえたばかりの蝶を
虫かごから放てば
不器用に羽を
風へ馴染ませながら
風へ帰ってゆく
まだ
畏れを知らない
膝小僧からは
胸の熱さの逃げ場のように
血が流れ出している
いつか指先の
ほんの小さな ささくれさえも
許されないものに
なってしまうことを
まだ知らずに
無力だけれど
無敵でいられる夏を
膝小僧だけが
正しく
記憶し続けるだろう
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島様、いつもお世話になっております。
実は先日、詩の記録用に使っているブログに、
細密鉛筆画家の篠田教夫さんからコメントをいただきました!!
島様から評をいただいた、「海辺の断崖」についての詩を読んでくれたようで、
必要であれば作品画像を使用しても良いという連絡でした。
洞察力のある素敵な詩と思います、という感想まで添えていただき、感激してしまいました。
まさか篠田さんが見てくれるとは思いもしなかったので、私の執念が通じたようで(笑)、本当に驚きでした。
島様に提案していただいたタイトルを使わせていただきましたので、目に止まりやすかったのだと、とても感謝しております。
島様、本当にありがとうございました。