篝火の花 荻座利守
寒空の下で
篝火の如く咲く花よ
遥かな
いにしえの世に
かつて栄華を誇った王の
冠を飾った花よ
そして
そのことで傲りもせず
はにかむように
下を向いて咲く花よ
故郷より
遠く離れたこの地では
縮こまるように螺旋を描く
茎の先に結実した
お前の種を目にするものは
ほとんどおらず
数多の花は
実を結ぶことなく
春を迎えながら散りゆくが
お前が
「シクラメン」
という名で呼ばれる
その由来を知る
僅かな者達により
お前の命の灯火は
この先も確かに
引き継がれてゆくから
はにかみながらも点す
篝火の如きその花で
寒さに凍える
この夜のような
侘しい人々の心を
照らしてほしい
今この季
暗闇に迷う人々が
見失っていた
己の路を見いだして
再び歩きだすには
お前の灯りが必要なのだ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シクラメンの和名は篝火花というそうです。
シクラメンの名は、ギリシャ語で円形や螺旋状を意味する「キクロス」に由来すると言われています。
花が落ち実が生ると、茎が螺旋状に丸まることから名付けられたとのことです。
その昔ソロモン王が王冠のデザインにシクラメンを取り入れたところ、シクラメンは恥ずかしさのあまり下を向いてしまった、という伝説があるそうです。