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スレッドNo.1394

雷鳴と白鳥

雷鳴と白鳥

 一度だけ、白鳥を見たことがある
 少しの雨と
 淡い雷鳴を引き連れて
 夢かと思い、何度も瞼をこすりつけるが
 白鳥はただ凛々しく立っており
 決して幻ではないことを思い知る
 飛びだった白鳥を見れば
 こころのどこかで、ああなりたいと思った
 ああなれば、ここではないどこかへと
 いけると思った
 真っ白な白鳥の翼と
 真っ黒なわたしの瞳が
 引き裂かれるように
 どこかでパチパチと、音が鳴っていた

 よれよれのスーツには
 現実と
 諦めが
 真っ黒なドレスコートのように
 からだに纏わりつく
 外に出ればだれかの視線が
 雨の様に突き刺さり
 どこにも動けずにいる
 夢ばかり語ってはだめだと
 彼女に言われたように
 あの頃から
 ときどき誤魔化すように口角をあげるのが
 こんなにもじぶんを傷つかせるのだと
 わたしは初めて知りました

 あり余った時間を
 悪戯に溶かしていくわたしたちが
 もしも時を奪えれば
 過去に遡り
 言い聞かせたい
「やりたいことをやれるだけ」
 夢ばかり見ていた
 あの頃のわたしと
 現実ばかり見ていたあなたに

 ときどき、あの日に戻ることがある
 少しの雨と
 淡い雷鳴
 目覚めたときに雫が落ちてしまうから
 あの柔らかい水滴は
 わたしの涙だったのではないのかと
 思うことがある
 何かが哀しいわけではありません
 遠くへ行くだけの話です
 白い翼を携えて
 大海を越えて
 たとえ雷鳴が聞こえようとも
 遠くへ、ただ遠くへ
 

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