余香 maut joe
残らない湯
戻らない具
氷らない無
底哀しく
どこや果肉
桃はマイム
言葉が征く
痴がましく
横は妻(ワイフ)
祖母は経管栄養(パイプ)
届かない (voi) ce
解かない hand (s)
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図鑑とにらめっこする医者
人体のこと
雲のうごき
あの世とこの世
座り心地はどうですか
妻と毎晩話し込んでいるその椅子は
電話は毎日掛けますか
耳に残るあの話は焼きまわしですか
ページの合間を縫うように
忙しない往診や
看護師長からの報告や
意味のない会議や
その身体を守り抜くために
図鑑はそのためにあるのでしょう
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甘く儚い部分を削り落とすと
苦みのある部分が
露わになる。
不定形なものとして
人を慰めるものとして
古くから
往来し続けている
風に乗って
声に乗って
やがてどこからか昇ってゆく
柔らかい気配がある。
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妻は言う。
中心に心があって、それ自体、
心には形があるの、と
それだけで心は存在するし、
それで十分満足なのよ、と
私を慰めるかのように
整頓された衣類は
私の前にちん、と正座している
昔、祖母はこうして
よく私を叱ったものだ
私はいまや
へこたれた祖母を
叱ってやることさえ出来ない
私が抱きしめたものは何だったか
私を抱きしめたものは何だったか
心はあったのかなかったのか
わからないまま
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