雨音の夜 荻座利守
雨音が忍び込み
心沈む夜が更けて
夢うつつの狭間
薄暮の如き朧な空間に
月下美人の白い花が
ゆっくりと開き始める
その故郷より
時と場所を越えて
今ここに
音もなく開く
蝋細工のような大輪が
似合わぬ雨音に
覆われるとき
雨雲に遮られた
月光の魂は
月の如く白くも
一夜のみにしか開かぬ
儚い花に宿り
花の魂は
降りしきる雨を
刹那に静止させて
その雨粒ひとつひとつ
すべてに宿り
中空に留まった
雨粒の魂は
その銀色の輝きを
微かに震わせて
夜の大気の中へと
溶けだしてゆく
心沈む夜
夢うつつの狭間に
染み込むような雨音が
引き継がれゆく
魂の旋律を
しめやかに奏でてゆく