城の風景
微細な馬が通り過ぎた
薄墨色の影をまとって
敵が来るわけでもない
味方は二人だけ
男は
城の警備につく
雪の日には
美しい女を追い回し
つまずいて
白にまみれて微笑み
雨の日には
死んじまった兵士たちの
旗のように揺れている
葬列をみまもる
退屈な月曜日
大きな欠伸をしていたら
男は
巨大なガマガエルになっちまった
絶望するどころか
陽気な労働者の唄を
があがあ
口ずさみ
ついには
銃なんかほったらかして
城下町の連中と
真夜中のジャズを
演奏したりする
ブルブル震えるトランペット
グルグル回る
カエルの目玉
夜を走るドラムの雄叫び
警備はそっちのけ
ある日の午後
いつのまにか
荘厳な城は消えてしまった
夢から覚めたように
そうして
ペンキ塗り立てみたいな
ガマガエルの体は
醤油で煮詰めた
岩波文庫みたいな色に
なっちまって
すっかり美味そうになった
ついには
酒に酔った
通りすがりの
そこいらの猫に
ガブッ、と頭から
食われちまったのさ
猫は満足
尻をふって帰宅する
春の雨のなかの出来事
薄墨色の空の下
蒲公英だけが
凝視していた