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スレッドNo.1435

駆け上がる  江里川 丘砥

僕は今日、人にバカにされた
僕がアルバイトだったからか
若かったからか
気弱そうだったからか
いや、
ただ相手の機嫌が悪かっただけなのかもしれない

モヤモヤを抱えた帰り道
いつもは通り過ぎる神社の前で
ふと、階段を見上げた
駆け上がろう

苛立ちも落ち込みも悲しみも
頭から離れない一切の感情を
一時でも忘れたかった

僕は駆け上がる
七十段余りの階段を駆け上がる
三分の一で息が上がった
心臓や肺が苦しくなるけれど
どうにかこらえて駆け上がる
必死に足を上げつづける

僕の頭の中は
もう足を動かすことだけ
眼の前の一段だけ
聞こえるのは 
必死に駆け上がる僕の足音と
どんどん荒くなる呼吸の音だけ

苦しくて、とても次の一歩は出せそうにもない
それでも
あと一段、あと一段だけ
その繰り返しで
足を上げつづけ
気がつけば
最後まで駆け上がっていた

青い空に雲が漂う
神社にはたくさんの木々が立ち
生い茂る葉が
風にさわさわと揺れながら
木漏れ日をきらめかせる
静寂のなか 荒い呼吸を整えながら
しばらく揺れる木漏れ日を眺めていた

繊細な無数のきらめき
だんだんと落ち着く呼吸
モヤモヤしていたのが遠い昔のようだった

明日も誰かが僕をバカにするかもしれない
それでも
僕はそれに心を奪われたくはない
僕の心はいつでも
眼の前の一段を見ていたい
呼吸の音を聞いていたい
静かな木漏れ日に気づいていたい
駆け上がった先で見上げた空が
晴れていても、曇りでも
僕はいつでもそれを
いい景色だと思っていたい

神さまに手を合わせ
ゆっくりと階段を下りていく
下りた途端に目の前を
車がクラクションを鳴らしながら走った
モヤモヤすることはなくならないんだろう
けれども
僕はやけに晴れ晴れとした気持ちで
いつもの景色を眺めていた

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