時の窓 荻座利守
何もない白い空間に
あなたはときどき
時の窓を切り出して
それをじっと
眺めていることがありますね
まるで自分を包む時間が
全てその窓に
吸い込まれてしまったかのように
その微動だにしない
背中に声をかけるとき
私は
凍りついたドアノブを
握ったときの
鋭い剃刀で切りつけられたような
冷たさを感じてしまうのです
まるであなたの発する体温が
全てその窓に
吸い込まれてしまったかのように
その窓は
ときに過ぎ去った過去だったり
ときに未だ到来していない
未来だったりするけれど
どちらにしても
そのときあなたの存在は
窓に取り込まれてしまって
あなたは時間も体温も持たない
脱け殻になってしまっているのです
ですから私は
あなたを閉じ込めている
凍りついた時の窓を融かす
アイスブレイカーとして
たとえ疎まれ嫌われるとしても
煩わしい雑事や
不愉快な出来事となって
あなたの耳元で
大きな鐘を打ち鳴らしましょう
そうすれば私は
時の窓を埋め戻して
あなたを
今という場に還らせることが
できるのですから
あなたを
冷たい脱け殻ではない
充溢した存在へと戻らせることが
できるのですから
私が打ち鳴らす鐘の音に
気づいてください
そこに込められた
今へと導くメッセージを
どうか受け取ってください