サラリー 理蝶
電線の上止まるカラス
聡い目で何を見る
電車はまた止まるからすぐ
羽ばたいて消えてった
きついネクタイの結び目に
今日一日が詰まっていて
緩いビールの泡立ちが
今日一日を労う為に待っている
生活は交叉する
繰り出す若い女や消えそうなワークマン
皆どこかで見た顔だ
でも何も知らない
僕も誰かにとっての誰かだ
縁もゆかりも名前もない
いち人間として皆揺られている
それでもきっと乗り合わせただけの僕たちも
無数のベン図を描くことができる
僕達はぼけていた目の焦点を
すぐに合わせて駅へ降りてゆく
人のさざなみとなって
機械的な明滅と共に改札を抜けたなら
とぼとぼと歩き出す
各々の寝床へ
各々の明日へ
やがて一様に僕達は目を瞑り
ほろ苦くほの甘く
生きていた事を思い出す
生き延びたことを確かめる
やがて眠りが訪れる
そして朝のブルーを穏やかに照らす
大きな太陽と共に
山の手はまた回り始め
腹を下した僕は
駅のトイレへ駆け込み
トイレットペーパーがまた回り
そしてそれを切らし
掃除に来た清掃員が
また替えを仕入れねばと
頭を掻く
そうして経済が回る
偉大な愛すべき
時々滑稽にも思える
この世界は回っている
僕が今立っているこの大地だって
黒く深い宇宙の中で
孤独に回転を続けている
それぞれの縮尺で
皆なんらかの歯車となって回転している
時々、飽き飽きする日もある
ふとこの回転の連続から
降りたくなる日も
でもいつか出会う
僕達を幸せにする歯車と噛み合う日が来る
僕は穏やかな太陽に向かい祈る
その日が来ることを
さあ、また始めよう
くだらなくて何もない
思い返してやっと愛しくなる
そんな一日を