静電気の季節 荻座利守
寒さが厳しさを増す
この季節に
様々な処で
指先に
鋭く痺れるような
痛みを覚える
静電気の季節
触れることを
恐れる季節
乾いた空気の中
摩擦や剥離や衝突により
様々なものが
様々なものより
電子を奪い取り
静かに黙したまま
人知れず帯電し
電荷を蓄積して
指先が触れた途端
一気に放電して
鋭い痛みをもたらす
ときにその小さな放電が
大きな爆発や火災を
引き起こして
全てを焼き尽くしてしまう
この乾いた世界の到る処に
奪われたものの
静かに蓄積された電荷と
触れることへの恐れと痛みが
満ち溢れていて
人々は
ものに触れることを
互いに触れあうことを躊躇い
手を伸ばせずにいる
それでも
触れる刹那に
指先よりほとばしる
ごく微かな青白い煌めきは
互いに
惹かれ合いながらも
引き離されたものが
再び結び付くときの
歓喜の閃光でもあり
寒さに震える人々を暖め
暗闇に迷う人々を導く
灯を点す種火とも
なり得るものだから
寒風吹きすさび
乾いた想いが流れる
この静電気の季節でも
人々は触れることへの
恐れや痛みを斥けて
再び出逢うときの
微かな煌めきを
仄かな悦びを
再び追い求めるだろう