もやもや 山雀詩人
プーン
蚊が飛んでいく
パチン
両手で叩く
いや
私は蚊も殺せないたちなので
叩いたのは
となりの人
その人が両手を開く
いた
手のひらに
もう動かない物体が
パチン前=両手+蚊の体+蚊の命
パチン後=両手+蚊の体
何だろう
この差
命はどこへ消えた
プーンと蚊をはばたかせ
体を宙に浮かばせた
命
おかしい
1が0になるなんて
1は1
不増不減だ
きっといる
まだこの辺に
いない……いない……
……いない……いない……
いた
天井に
何かがもやもや
漂っていた
何とも不思議なその軌道
空中をふわふわと舞い
見ようとすると
ピッと逃げる
へえ、命ってこうなんだ
こんなふうに浮かんでるんだ
もやもやと
まるで遊んでるみたい
窓を見る
空にもたくさんいた
ボウフラみたいなもやもやが
楽しげに儚げに
いや分かってますよ
ええ分かってます
これは単なる飛蚊症
眼球の老化現象
イヤですねえ
老化だなんて
そういや最近あちこち痛い
こうやって年老いて
死ぬんですかね
私もいつか
あの蚊のように
1から0に
いや
違う
1は1
死ぬんじゃない
もやもやになるんでした
もやもやと漂いながら
お空の上で
遊ぶんでした