粉々 江里川 丘砥
生きることに疲れた
ぼくはある時から
空を見はじめた
足元ばかり見ていることに
飽き飽きした
空ばかり見るようになった
雲の流れ
星の動き
風の通り道を眺めては
その風に飛ばされて
どこか遠いところへ行ってしまいたいと
願うようになった
なぜだろう
どこまで行こうとも
風には追いつけず
風に乗る術も知らず
自分を見失いつづけた
ある日 突風が吹き
足元からすくい上げられ
倒れたぼくは
とうとう
粉々に
砕けてしまった
風はぼくを
その場においていくだけだった
粉々になっても
風に舞い散ることはできず
元に戻ることもできず
雨に打たれ
雪が積もり
雪解け水が流れても
ぼくは
水に溶けることもできず
太陽に容赦なく灼かれ
新月の闇夜に覆われても
生まれ変わることもできず
粉々のまま
ただそこに在ることしか
できなかった
それでも
しばらくすれば
また突風が吹き
空に飛ばされると思っていた
けれども
いくつ季節が過ぎても
ぼくは
粉々のままだった
どんな冷気も
どんな灼熱も
ぼくを
凍らせることも
焼き尽くすこともできなかった
止まった時の中で
空を見上げる
雲の流れ
星の動き
風の通り道を
見つめながら
いまも粉々に砕けている
風に舞うだけでいい
空まで行けなくてもいいから
止まったぼくの時を
少しでも動かしてくれる
何かを願いながら
ぼくは
ただここに
在るだけの存在に
なってしまった