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スレッドNo.1625

粉々  江里川 丘砥

生きることに疲れた
ぼくはある時から
空を見はじめた
足元ばかり見ていることに
飽き飽きした

空ばかり見るようになった
雲の流れ
星の動き
風の通り道を眺めては
その風に飛ばされて
どこか遠いところへ行ってしまいたいと
願うようになった

なぜだろう
どこまで行こうとも
風には追いつけず
風に乗る術も知らず
自分を見失いつづけた

ある日 突風が吹き
足元からすくい上げられ
倒れたぼくは
とうとう
粉々に
砕けてしまった

風はぼくを
その場においていくだけだった
粉々になっても
風に舞い散ることはできず
元に戻ることもできず
雨に打たれ
雪が積もり
雪解け水が流れても
ぼくは
水に溶けることもできず
太陽に容赦なく灼かれ
新月の闇夜に覆われても
生まれ変わることもできず
粉々のまま
ただそこに在ることしか
できなかった

それでも
しばらくすれば
また突風が吹き
空に飛ばされると思っていた

けれども
いくつ季節が過ぎても
ぼくは
粉々のままだった
どんな冷気も
どんな灼熱も
ぼくを
凍らせることも
焼き尽くすこともできなかった

止まった時の中で
空を見上げる
雲の流れ
星の動き
風の通り道を
見つめながら
いまも粉々に砕けている

風に舞うだけでいい
空まで行けなくてもいいから
止まったぼくの時を
少しでも動かしてくれる
何かを願いながら
ぼくは
ただここに
在るだけの存在に
なってしまった

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