不思議な朝 江里川 丘砥
なんの前触れもなく
初恋の人が
夢に出てくるだなんて
不思議な朝だ
もう随分前に別れてから
また会うことはなかった
最近誰かとそんな話をしたわけでもなかった
それなのに突然
あなたはこうして
夢に出てくる
そして
目が覚めて
あの頃のことを
思い返す
あなたはもっと
そばであなたのことを見ていてくれる人が
よかったのかな
だけど
私はあの頃
もっと遠くへ自由に飛んで行きたかった
あれから時は経ち
見る影もなく変わった
世界も
周囲も
私も
ある日を境に飛ばなくなった私を見ても
きっとあの頃のように
困りながらも
「大丈夫」
そう言って
あなたは笑って励ましてくれただろう
笑った顔が好きだった
あなたのことを思い出す
きっとあなたも
どう愛するかなんて分からなかった
だけど
一生懸命に好きでいてくれた
やさしくて明るい心根に惹かれた
あなたのことを思い出す
手を離さなければと思うこともあった
だけどきっと
ずっと一緒にはいられなかったね
そのことも分かってしまうくらい
時は過ぎ
もう会うこともないのだろうけど
その暖かな心が
今もあなたを幸せで包んでいることを願う
どこにいるのかも
わからないけれど
笑っていた顔を
やさしい心根を
「楽しかったね」そう言って別れた
最後に隣にいた時まで
あの笑顔で笑っていてくれたことを
心のどこかに
いつまでもある
初恋を
思い出す
きっと
誰にでもある
不思議な朝だ