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スレッドNo.1669

季節工場【春】  秋さやか

ぽとんぽとんぽとぽとん

季節工場の屋根の下
ずらりと並べられたバケツのなかへ
雪解雫の落ちる音が響きだします

ぽとんぽとんぽとぽとん

朝日を孕んだ雫の
楽しげな音色につられて
子供たちが集まってきます

両手に抱えた砂糖と洗剤を
落としそうで落とさずに

開け放たれた門の前には
虹色模様のストローがたくさん置かれ
切り込みが入った先っぽは花のよう
「ひとりいっぽん」という注意書き

子供たちは
一目散にバケツのもとへと駆け寄って
真っ白な砂糖をさらさらといれてゆきます

溶け切るのを待ちきれず
続いて洗剤もいれます

みな腕まくりをして
楽しそうにかき混ぜます

雪解雫は
冷たくないのでしょうか

バケツを満たしてゆく
きらきらと光る泡

ひとりが泡まみれの腕を引き抜いて
門へと向かえば
みんなもそれに続きます

取ってきたストローを
バケツのなかへ 
ひときわ慎重に浸します

期待とわずかなおそれに
ふるえる水面

ゆっくりと引き抜いたストローへ
熱い息を吹き込めば
大地と空を映しながら
膨らんでゆくしゃぼん玉

息が切れるのと同時に
風に乗って舞いあがります

高く高くあがっていく
空の途中

しゃぼん玉のなかで
揺らめいていた地平が
しんと凪ぐ

その次の瞬間

しゃぼん玉は
夢から覚めるように弾けます

ぽわん

そうして暖かな空気が次々に
ぽわん
ぽわんと生まれます

地上には
子供たちの喜びの声が響きます

寂しく眠り続けていた空は
ようやく明るさを
取り戻してゆく時がきたのです

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