臨終 江里川 丘砥
さようならまでの間に
あなたは
どこを見つめていたのでしょう
虚ろな目で
意識があるのかもわからない表情で
窓の外
暮れゆく日と人生を見つめ
あるいはもう
見つめることすらもしないで
すぐそばまで来ている死へ
すべてを明け渡す用意をするように
浅く短い呼吸を
繰り返していた
干潮の時刻が訪れ
今日の潮の満ち引きなど
もはや知るはずのないあなたが
途端にあえぎながら
大きく息をしはじめる
心電図が
慌ただしく音を立て
終わりを報せるように鳴りだすと
だんだんと
血圧は下がり
心音が
小さく
小さく
なって
ゆく
最期の時
魂を天へと還すように
たった一つ
大きな息を吐いて
あなたはそのまま
静かに眠った
その吐いた息にのって出た
魂が
見えやしないかと
目を凝らしてみたけれど
白い天井があるだけ
たちまち霊体になった
あなたが
笑っていやしないかと
そこら中を見回したけれど
ついに息を引き取ったあなたが
横たわっているだけ
体はまだ
温かい
あなたはもう
そこには
いない
わたしは
また一人
愛してくれた人を
なくしました