夏至 朝霧綾め
夏至はいつだろう、あの子の呟きに
いつだろうね、と答える
繊細な感性、敏感な自然観
そう思ってもらう計算も期待もない
私たちはそこまで器用ではないのだから
あの子が夏至のことを聞いたので
私も安心して、
日がどんどん長くなっていくね、と答えた
二日後、校門の前で会って一緒に帰った
小テストのこと、先輩のこと
学生らしい話題のあと
ゆったり訪れた沈黙に
あの子は口を開いて言った
「おととい、夏至の話を、したのだけれど」
学生だらけの道路は暑くてうるさくて、
え、と聞き返すと、
しっかりゆっくり、もう一度言ってくれた
「おととい、した、夏至の話」
私はあちこち走り回ってつかれていて
げし、の意味がわからなかった
それでもあの子は凛として
「家に帰って調べてみたら、その日が夏至だったの」
ようやく思い出して、なぜかうれしくて
じゃあ、あの日の太陽がいちばん高かったんだね、と目をみひらいた
めったに表情を変えないあの子も
小さく笑って、そうだね、と言った
古事記の神さまにちなんでつけられた
その子の名前が美しかった