明るいほうへ 暗沢
凍晴れの一隅が滲み出て
下の方へと融けていく空を
あまり仰ぎ見ていけない
それは 涙で濡れる相貌へ
無下に視線を投げるような
頓着の無さ こころなさだから
遥かな高みより蓋していた
あの銀盤 真澄の穹を融かした
生温いものがある
それは 羊水のぬくもり?
巷間の塵の吹き上げたのは
含羞を紛らす くしゃみのようで
明らかな雲より あらわれた路上へと降る
小糠雨に混じるのは 涙?
一等純粋に 生の輝きを帯びていた
高みの冬 その冷徹の裡に
隠されて続けていた秘密が今また
自ずから 暴かれようとしている
それらの紛糾を
あまり仰ぎ見てはいけない
三百と六十余日の 回帰して行く暦の中
幾千 幾万と繰り返された紛糾だった
それら自壊的な 必然的な顛末を
殊更に見据える事は無い
仰ぎ見る必要は無いのだ
見苦しいことだから
辱しいことだから
哀れなことだから
紛らしの末に また一切は
忘却へと融けて 拭い去られる
低く頑是無くなった季節から
明るく 道は照らされる
それで仕舞いだ 詰まるところ
道はまた明るくなったのだから その方へと
明るい方の道へと 歩いて行こう
※判然と種となった詩句があるので引用として載させて頂きます。
「見上げてはならぬ空あり春早く 阿部青鞋」