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スレッドNo.175

老舗の親父  ピロット

眉間に皺を寄せて
牛の舌を凝視する
赤い炭火 禿げた頭をてからせる
黒縁眼鏡 丸顔の親父

焼き網の上 
太い指に菜箸握り
慣れた手付き
丁寧に 素早く 肉を返してゆく

しわがれ声で お喋りに興じる
出勤前のマダムたち
上司の愚痴に 口角泡飛ばす
会社帰りのサラリーマン

無表情の親父は 客に目もくれず 
ただ黙々と
寸胴鍋のテールスープ
ゆるりゆるり かき混ぜる

暖簾のしみ 黒光りした柱
壁に貼られた 色褪せた切り抜き
親父そっくり 調理衣の初代
人知れず 沈黙の中語られる 老舗の歴史

麦飯 牛たん テールスープ
伝統が培う優しさ 体中の血と共に駆け巡る
旨味 塩梅 言葉も滅する妙なるものの 
滋味深く ほんわか湯気に包まれる

カウンターの前
親父は脇目も振らず 肉を焼く
無愛想な顔に
人情の皺 刻み込んで

みかん色 裸電球の火影は揺れる
「伊達の夢」 盃重ね
穏やかにたゆたう 重たい頭
仙台の夕餉 仙台の夢幻……

客のざわめき 熾火のはぜる音
巨大な飾り駒 「王将」背後に従えて
きらっと 静かに光った 親父の目
そのふくよかな厚い手は 休むことを知らない

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