せつ人茶 紅桃有栖
紅茶を一杯いただく
奇々怪々縁あって
海の向こうで少年が死んだかもしれぬ
茶葉の揺れが遠くに響いて
千年後の大津波となったかもしれぬ
歩いてはころし
目を瞑っては草木を生かす
手を振れば彼方が絶え
息を吐けば此方が守られ
さりとて動かなくては我が消えゆく
星の胎動が軽く千の命を屠るように
ただの香気が万の民を産むだろう
故に紅茶を飲むときは
衆生の悲しみを極上の甘露とし
我のにがさを楽しみにかえて
精一杯いただかねばならぬ
十方を斬り伏せるのは何も刀だけではない
白いカップを一捻り
吾人をころすには事足りる
では活人茶とは何であろう