霞の衣よ佐保姫を呼んで 香月
光が跳ねる
並木を跳ねる
夜雨の露に 桜の古木に
樹皮を飾った地衣類に
光が跳ねて 踊り子を照らす
濡れたコンクリートの舞台の上で
それは踊り子の晴れ舞台
春の踊り子の晴れ舞台
霞のかかる水色の空に
薄紅色の髪を泳がせ
緑のドレスを翻す
風に振られる腕樹に沿って
地衣に蒔かれたスパンコールが
きらりきらりと光を散らす
舞姫の門出をことほぐように
光が跳ねる
風に揺られるピンクの髪に
光を弾く
小枝の先に滴る雫が
雨滴に濡れた愛しき春よ
淡い薄紅のレヱスを広げ
幻の焔を灯しておくれ
光が跳ねる
ドレスを跳ねる
春の踊り子を包んだ風が
黒くうねった樹幹を抜けて
枝木の先の蕾に遊び
そしてまたひとつ春が咲く