月のかげ 江里川 丘砥
月明かりのかげに
潜むように
暗がりでそっと
息をする
太陽はいない
外灯もない
人も見えない
この世界には
わたしのほかに
誰もいない
生きていたいと
願ったことは
随分なかった
いつ失くしても
惜しくないほど
価値を見失い
はじめから
あったとも思えず
夜に
立ち尽くしていた
月明かりに輝らされて
夜がそっと
明るみに出る
群青の空に
灰色の雲
深緑色の山々に
揺れる木々の音
足元には
白く小さな花が咲く
月が夜空を背負い
わたしを覗き込む
夜のすべてを
吸い込むような引力で
わたしを引き止める
この世にもうすこしだけ
生きていたい
月がつくるこの世界を
見ていたい