スタンダード 妻咲邦香
田舎は好きだよ
水車小屋のある風景
二つの色の小川が交わる
水草がゆらゆら揺れて
いつまでも離れなくて
いつまでもゆらゆらで
そういうのって見たことないかな
コンビニだったら幾つかあって
意外でしょ?
大きなショッピングモールと
ちょっと有名なお寺が
大通りの真ん中に
雲は低く立ち込め
山に帽子のように乗っかる
ちょっと誰かに似ている
最近出来たお洒落なカフェは
お休みの日が多くて
小さな庭がよく手入れされている
スコーンが美味しいんだよ
でもサンドイッチは二種類しかない
誰かと過ごした日々は暖かで
小さな花のようだった
壊れることも出来ないままに
あと十分で日が暮れる
その人はもういないかな
街とそんなに変わらないよ
住んでる人とか、いい人はいいし
そうじゃない人もいる
空気だけは綺麗で
夜は星がよく見えて
知らない子供が挨拶してくれる
何をしたいかなんて
今はまだはっきり言えないけど
スタンダードって柄じゃない
僕には永遠に描けないだろう
君に刺さるものなんて
壊れることも出来ないままに
あと十分で電車が来る
それを逃したら君は
一時間以上待たなくちゃならない
壊れることも出来ないままに
壊れることしか出来ないままに
僕の壊したものが何だったのか
それさえもわからないままに
小さな花だけが絶えず生まれ変わる
同じ花かもしれない
それもわからずに
あと一分で電車が来る
もう見えている