MENU
1,163,755

スレッドNo.1845

冬未明  秋さやか

夜明け前の月を
見つめながら歩く

足元に沈澱した紫の夜

うつむけば
その深みに
落ちてしまいそうな心細さのなか

しずけさを
優しく揺らすエンジン音で
どこかへ走り去っていくトラック

誰もいなくなっても
規則正しく変わりつづける信号機

工場のだだっ広い駐車場に
ぽつんと停めてある車の
フロントガラスは凍りつき
きらきら輝いている

いつから停めてあるのだろう
わたしが夢から覚めたときにはもう
ここにあったのだろうか

持ち主が戻るころには
すきとおる水滴へ変わっていることを
ちいさく願う

白い吐息は
やすらかに闇へ溶けてゆき
影だけの世界に
わたしもまた影として馴染む

言葉はまだ眠っているから
ひとびとの寝息に呼応する
星の瞬きが美しい

名も知らない星と星とを
結びつけたくなる 澄んだ孤独

もっと星座に詳しければ良かったと
もどかしい気持ちを
木々のざわめきにあずけ

薄明かりを放つ
工場の入り口へ
吸い込まれるように入っていく

錆びついたドアノブは
冷え切っているけれど

次にこの扉から出るとき
世界は一転し

優しいまなざしほどのぬくみで
朝焼けがあかあかと広がっているだろう

陽のあたる銀色のフェンスには
小さな鳥が降り立つだろう

そう
信じていられる 冬未明

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top