旅愁 山雀詩人
二本の棒が横たわる
山の奥へ奥へと続く
よくもまあ敷いたものだ
こんな長い鉄の棒を
こんな山の中に
もしも僕が発明家で
もしも列車を発明しても
きっと却下しただろう
線路を敷かなきゃ走れない
そんな乗り物はありえないと
でもそんな予想とは裏腹に
今や線路は津々浦々に
町から町へ
都市から都市へ
ついにはこんな山にまで延び
僕が この寂しがりやの僕が
まさかのひとり旅なんぞして
案の定寂しいだけの一夜を過ごし
案の定寂しいだけの今朝の旅立ち
それでも今まさに列車は駅を離れ
誰見送る者はあらねども
もう来ることはないであろう此処を去らんとするに
おのずから旅情は高ぶる
何だろう この不思議な気持ち
何だろう このこみあげるもの
きっとこの棒のせいだ
およそこの世の旅の形で
列車の旅ほど寂しさをかきたてられる旅立ちが
ほかにあろうか
列車を発明した人は
旅愁の発明家でもあったのだろう
寂しさを演出すべく
こんな大がかりなセットを組んで
ほら 今もつながっている
僕をさらなる愁いへと
誘うように 招くように
二本の錆びた鉄の棒が
山の奥へとつながっている