発信しなかった僕の世界
今朝日の出前に
僕が散歩に出かけたことなんて
誰も知らない
春はあけぼのというけれど
あいにく外は
雨上がりの曇り空
帰りに小さな公園に寄った
いつもとは違う道を通ったら
小石が固まって
転がっている場所を見つけた
そこに小石が
固まってあるなんて
誰も知らないだろう
僕がこっそり
小石を拾って帰ったなんて
誰も知らない
家の戸棚に
そっと飾っているなんて
誰も知らない
その後一番乗りで
隣町の胃腸科に行ったなんて
胃腸科にいた人以外は
誰も知らない
帰り際に
駅前でタバコを一服したことなんて
誰も知らない
ましてや帰宅して
石ころの詩を書いたことなんて
誰も知らない
紅茶を飲んだけど
その味がフルーツバニラだったなんて
僕以外の誰も知らない
もう透析を受けてきて
四年になる
午前中歩き回るだけで
とても疲労する
かなり心臓に
負担がかかってるね
その後僕がベッドに倒れ込んでいたなんて
誰も知らない
誰も知らないのさ
四年前まだ水分調節が
うまくできなかった頃の
五時間に及んだ透析
その時僕がどれだけ辛かったか
誰も知らない
「よく頑張ったね」の一言が
どれだけ欲しかったか
誰も知らない
そんな事考えてたら
もう夜が更けてきた
インスタグラムにも上げられない
僕の今日一日の内面
朝起きて
曇り空だった時の
残念な気持ち
石ころを見つけた時の
心和む気持ち
そんな事誰も知らない
誰も知らないと
思いながらベッドに入った
真夜中
拾ってきた石が
コォーンと
地の奥底から響くような
もの悲しいような
ある種の叫びのような
そんな音を起てたなんて
眠りかけていたのに
その音に思わず飛び起きた僕以外
誰も知らない
誰も知らない
誰も知らない……