秘密 江里川 丘砥
秘密を抱えた人が
そこら中に溢れている
けれども
ひとに言えないのだから
どれほどたくさんいようとも
心の灯火になることはなく
囲いの中に入ったまま
秘密が孤独を生み
孤独が病気を生み
病気が死を生み
死が喪失を生み
喪失が影を生み
影は闇に入り込み
正体を隠す
秘密を抱えた人は
そこら中で
笑っています
悟られないように
気取られないように
ところが
時々
打ち明けてしまおうかと
心のなかで
秘密が顔を出してしまうのです
けれども
ついぞその時を逃し
あるいはその時が来てしまうことを恐れ
秘密は秘密のまま
そこに 置いてあるのです
見向きもされないまま
見ないでおきたい暗闇のまま
置いてあるのです
恐ろしく長い沈黙のなか
凍るような鉄の冷たさが背中を這い
灼熱の刃が腹を焼く
誰も見ていない
誰にも知られることはない
作り笑いをしながら
見えぬところで
人知れず凍てつき
傷を負うたことも
誰も知らぬまま
やがてひとり
その生涯を終えるとき
ひっそりと
秘密ごと
燃されていくのです