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スレッドNo.1934

感想と評 4/4~4/6ご投稿分  水無川 渉

お待たせいたしました。4/4~4/6ご投稿分の感想と評です。コメントで提示している解釈やアドバイスはあくまでも私の個人的意見ですので、作者の意図とは食い違っていることがあるかもしれません。参考程度に受け止めていただけたらと思います。

なお私は詩を読む時には作品中の一人称(語り手)と作者ご本人とは区別して、たとえ作者の実体験に基づいた詩であっても、あくまでも独立した文学作品として読んでいますので、作品中の語り手については、「私」のように鉤括弧を付けて表記しています。ですが、「私」=「作者」の場合はもちろんそのように読み替えて読んでいただければ幸いです。

●喜太郎さん「アイ ライク ユー」
喜太郎さん、こんにちは。初めての方ですので、感想を書かせていただきます。

語り手の「僕」の「君」に対する恋心がストレートに表現された爽やかな詩ですね。両者の関係は友人関係のようですが、それ以上になりきれないもどかしさがよく伝わってきます。けれども相手がなかなか振り向いてくれない片思いに悶々とする日々こそがキラキラ輝いている、それは恋愛の真実を突いているのかもしれません。「アイ ラブ ユー」ではなく「アイ ライク ユー」という控えめなタイトルも、恋心いっぱいの本文とギャップがあって面白かったです。

テンポの良い軽快な文体、2行ごとにまとめられた並行表現の多用など、形式的にもこの詩の主題によくマッチしていると思います。あとは好みの問題かも知れませんが、連分けするとより読みやすくなるかと思いました。また書いてみてください。

●紫陽花さん「藁人形辞めました」
紫陽花さん、こんにちは。「藁人形」というインパクトのあるタイトル、「昔昔ある所に」という昔話風の始まり。それだけで読者は引き込まれます。このつかみは素晴らしいですね。

語られる内容は不幸な母子関係(肉体的・精神的虐待とそこからの解放)を描いたシリアスなものです。藁人形として育てられた子どもがついに家を出て藁人形であることを辞める。重い内容が昔話風に「ですます」調で淡々と語られるからこそ、そのメッセージが心に響いてきます。最後の結末も単なる「めでたしめでたし」ではなく、その前に「多分きっと」が付けられることで含みを持たせて終わっています。この終わり方も良かったです。

いくつかコメントさせていただきますと、まず「藁人形」と聞くと読み手は反射的に誰かを呪うために五寸釘を打ち付ける藁人形を思い浮かべると思います。私もタイトルを読んだ時にこれを連想しましたし、2連目までは周囲の世界に対する怒りをぶつける存在として描かれているように読めます。

ただ3連目以降は少し変わってきて、「藁人形」は単に他の人形とは異なるみすぼらしい人形として描かれており、五寸釘のイメージはなくなります。その場合、「打つ」は釘で打ち付けるということではなく殴打するという意味になりますが、3連1行目の「打ち付けよう」は五寸釘のイメージなので読み手は混乱するかもしれません。またこの詩には「釘」に関する言葉が一つもありませんが、それに類する言葉を補わない、ただ「この子を打ち付けよう」という表現は日本語として違和感がありました。

要するにこの藁人形が五寸釘を打ち付ける呪いの藁人形なのか、そうでないのかを明確にした方がいいかと思います。前者なら釘のイメージを入れる、後者なら思い切って別の人形のイメージにするなどが考えられるでしょう。

また、3連で唐突に子どもが出てきて、藁人形=子どもということが初めて明らかにされますが、その前に母と子の関係が分かる何らかの情況設定をした方がいいかと思いました。

いろいろコメントしましたが、シリアスな主題や表現のアイデアなど、宝石の原石のようないいものを持った詩だと思います。評価は佳作半歩前になりますが、じっくりと推敲して大切に育てていただくと、さらに素晴らしい詩になることを確信しています。

●森山さん「日々」
(こちらの森山さんは「森山 遼」さんとおそらく同一人物と思いますので、そのつもりで書いていますが、もし違っていたらすみません。)

森山さん、こんにちは。非常に短くシンプルな詩ですが、いろいろなことを考えさせられる深い詩だと思います。

前半の「魂の/重量が/日に日に/軽くなり」は、人生のしがらみや悩みから開放されて軽やかに生きられるようになったという肯定的な意味にも、生きる意志がしだいに薄れてきているという否定的な意味にも取れると思いますが、私は後半部分との関連から後者の意味で読みました。

この詩では前半の「魂」と後半の「体」が対比されています。何をするにもやる気の出ない無気力に襲われた時、長年の習慣になった行動をただ続けることだけが日々を生きる原動力になる、ということはありますね。「私」にとってそれはラジオ体操なのでしょう。長年続けていれば、音楽が鳴ると何も考えなくても身体が動くようになります。「ラジオ体操」という言葉を聞いただけで、日本人なら誰しもそのメロディが頭に思い浮かびますが、軽快なラジオ体操の音楽とは裏腹に、抜け殻のようになった身体がただ機械的に動いていく、という心寒い光景が読者の胸を打ちます。ただ、人間の心と身体は連動していますので、身体を動かすことが心の健康にもつながっていけば……というかすかな希望も私は感じました。

この詩の内容が作者ご本人の実体験に基づいているのか、あるいは文学的創作なのか分かりませんが、もし前者であるならば、そのような苦しい状況を詩として表現することで、少しでもご本人の助けになることを願っています。評価は佳作です。

●山雀詩人さん「旅愁」
山雀詩人さん、こんにちは。この詩は一読して気に入りました。この詩の肝は

列車を発明した人は
旅愁の発明家でもあったのだろう
寂しさを演出すべく
こんな大がかりなセットを組んで

だと思いますが、このクライマックスを準備すべく冒頭で周到に伏線(線路?)が張られており、最後にさらなる旅への予感をもって終わる構成もお見事です。

どこまでも伸びていく二本の鉄の棒(あえて「レール」と言わないところも面白いですね)が旅愁をかき立てる。けれども同時にそこには抗しがたい魅力もある。これはとても良くわかりますね。この詩を読んだだけで、ふらりと列車の一人旅に出かけたくなってしまいます。

旅愁とか一人旅というのは詩においては手垢の付いた主題だと思うのですが、それを新鮮な切り口で表現してくださいました。評価は佳作となります。

●妻咲邦香さん「歩こうよ」
妻咲さん、こんにちは。この詩は1-2連(A)、3-4連(B)、5-6連(A’)という構造になっているように思います。最初と最後のAとA’は「歩こうよ」のフレーズを軸とした、わりとストレートな恋愛詩になっていますね。

間に挟まれたBは妻咲ワールド全開といった感じでしょうか。各詩行の間の論理的なつながりというよりは、連想による自由な展開がなされているようです(「発明された/発見されない」「ナポレオン/ナポリタン」など)。全体として、雑然とした世界の様子を上空から俯瞰しているような印象を受けます。私はシャガールの「街の上の恋人たち」という絵を思い起こしました。

この詩の全体を読んで、私は音楽(特にジャズ)を聴いているような印象を受けました。最初にテーマ(歩こうよ)を含んだパートがわかりやすいメロディで演奏されます。中間部はフリージャズ風の自由な即興演奏。そして最後に最初のテーマを含むメロディアスなパートに戻ってきてエンディング、といった感じです。(個人的にもこういう音楽は大好きです。)最終連の

そこいらの星をぐるっと
散歩して
ほんの数万光年

も印象に残りました。詩全体の締めとして素晴らしいですね。

手堅い構成の中に異なるスタイルの詩をうまくミックスさせた、とても魅力的な詩だと思いました。評価は佳作となります。

●鯖詰缶太郎さん「しあわせが、まっている」
鯖詰さん、こんにちは。この詩はこれ以上ないほどストレートな愛の歌ですね。おそらく「僕」は仕事帰りで、愛する人の待つ家への帰路を急いでいるのでしょう。そのしあわせな気持ちがさまざまに表現されていますが、それぞれとても印象的な詩句ですね。末尾の(想像の中で)職質を受けて「しあわせもの、です。」と答える着地もお見事です。

細かい点をコメントしますと、

あまり、甘い言葉を書いてしまうと
カレーが甘くなってしまいそうだから

の部分。このところは家に帰って「君」と交わす話し言葉について書かれていると思うので、「書いて」ではなく「かけて」等の表現の方が良いのではないかと思います。

タイトルは「しあわせが、まっている」で、家に帰るとそこにしあわせが待っている、という意味だと思います。この表現それ自体としては十分理解できるものですが、全体の内容からすると、そこにたどり着く前の「僕」はすでにしあわせいっぱいの状態にあることがこれでもかというくらい強調されていますので、私には微妙な違和感がありました。それともこれは「しあわせが、舞っている」という心の躍動感も含めた二重表現でしょうか? まあ、家に帰る前もしあわせだけれども、家に着いて「君」と会ったらさらにしあわせが爆発する、ということかも知れません。その気持も分からなくはないですね。

とにかく、読んでいるこちらまでしあわせな気持ちになるような、温かい詩でした。評価は佳作です。

●やまうちあつしさん「ほほえみなさい」
やまうちさん、こんにちは。初めての方なので、感想を書かせていただきます。

忙しい毎日の中で、あるいは辛いことがあった時、いつの間にかほほえみをなくしてしまうことってありますよね。そんな時に路傍の花や街の夕日といった美しいものを見ると、それらが「ほほえみなさい」と語りかけているように、語り手は感じます。このような感受性は素晴らしいと思います。

そして実際にほほえんでみると、周りの世界が夢のように一変して見えてくる体験をしたのでしょう。

こんなに変わるとは
知っていたけど
知らなかったよ

この連はたしかに真実だと思います。ほほえむと幸せになるということを頭の知識で知っているのと、実際にやってみて体験するのとでは天地の開きがあるんですよね。

短い詩行を重ねた静かな語り口もこの詩の主題にマッチしていると思います。いい詩ですね。またの投稿をお待ちしています。



以上、7篇です。今回は恋愛詩が多かったですが、季節のせいでしょうか。今回もまた、味わい深い詩の数々と出会うことができて感謝でした。

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