オトとコトバ 山雀詩人
昔むかしあるところに
ふたごの兄弟が住んでいました
名前はオトとコトバといいました
幼い頃のふたりは
それはそれはたいそうな仲良しでした
まるで子犬がじゃれあうように
いつも一緒に遊んでおりました
やがてふたりは大きくなって
オトは楽器を奏でるように
コトバは詩を詠むようになりました
みめ麗しく才能にも恵まれたふたり
でも悲しいかな その距離は
しだいに離れていったのです
オトはコトバの詩を読むと
音楽に比べて単調だと言いました
コトバもオトの音色(ねいろ)を聞くと
言葉に比べてメッセージ性が乏しいと言いました
ふたりはだんだん気まずくなって
別々に暮らすようになったのです
そして悲劇が起きました
亡くなったのです コトバが
かわいそうに急な病で
オトは泣きました
自分でも驚くくらい何日も何日も
ようやく少し落ちついた頃
オトはせめてもの慰めにと
コトバの遺した詩集を開き
声に出して読んでみました
すると今にして分かるのです
コトバの気持ち
コトバの優しさ
オトは夢中で読みました
何度も何度も読みました
途中からつい興に乗り
メロディなんかつけてみました
するとどうでしょう
なんという美しさ
なんという妙なる調べ
こんな美がこの世の中にあったとは
今まさに出会ったのです
オトとコトバが
別々だった兄弟が
オトは心で言いました
オトはコトバを思い
コトバはオトを思う
私はこれをウタと名づけよう
二度とふたりが離れぬように
耳を澄ましてみてください
きっと聴こえることでしょう
今日もどこかでオトとコトバが
美しくも切ないふたりのウタが