芳香 理蝶
アルコールに浸された
濡れた月を撫でたい夜に
君はガラスみたいな声で
恋の狼煙をあげている
それは僕の元に漂ってきて
僕の不安と共鳴し五月蝿くなる
不安は言葉を逸らせて
君の心を無邪気に引っ掻いたりする
そうやって夜は熱くなる
全ての猶予された恋が
堰を切って動き出すような
甘い甘い風が
2人を吹き抜けたら
溶ける
2が引かれて1になる のではなく
2が合わさって強く1となる
溶ける、溶ける、溶ける
僕たちは夜を越える
越えた先には
だらしないシーツがあるだけなのに
僕たちはあくまで懸命に夜を越える
それが その一瞬が 生きるということの
一つの側面だと強く思う
だから僕は少し強く手を握る
夜を越えて時を越えて
生活が突きつける腐臭に強く耐えて
僕たちは生きてゆく
手と手が汗ばみ繋がれているのを
深く確かめながら
春の貧血じみた寂しさに
少しはにかみながら
僕たちは生きてゆく