昼休み 朝霧綾め
昼休み
お弁当を食べるために
友だちと中庭に降りていく
ベンチに5人腰掛けて
いつものように
先生や授業や部活
他愛もない話をしながら
それぞれ包みを開く
外はやはりあたたかい
近くに来たムクドリが地面を歩く
ピンクのかわいい花が木に咲いている
ふいに友だちの一人が
箸を持ったまま声をあげた
ほら、あそこ
てんとう虫いるよ
シロツメクサの右側のとこ
どこどこ、と他の子が訊く
ほら……ああーもぐっちゃった
え、でも見つけたよ
本当?
あれでしょ?
あ、うん、あれだよ よく見つけたね
えーどこー? 全然わかんない
なかなか見つけられない私は
笑って友だちの話を聞く
遠くから鳥のさえずり
お弁当の塩おにぎりがすごくおいしい
ふわりと 風が吹いた
あたたかくて少し強い春風
髪がなびく
その瞬間
中庭の隅のたんぽぽの綿毛が
一斉にふわりと飛んだ
青空と木を背景に
何百もの白い綿毛が
ゆっくりと飛んでいく
私はこの光景を
ただぼんやりと眺める
この場所を美しいと思い
ここにいたいと思うのは
きっと私だけではない
あたたかい春
しかも平和なお昼時
隣には友だちがいて
お腹も満たされている
これほど幸せな人がいるなら
きっと
同じ分だけ不幸な人もいるはず
暗く 暴力が横行する世界で
孤独のうちに生きる人
病に苦しむ人
虐げられたり、食べ物に困ったりすることはなくても
幸せではない人
私は膝の上からお弁当を下ろし
ベンチから立ち上がった
ここに立ちたくても立てない
人々の望みが
幾重にも重なった手のひらを
そっと 前に差し出す
この手でたんぽぽの種を
一つ一つ丁寧に 植えたい思いに駆られながら