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スレッドNo.202

眠る種  荻座利守

一粒の種がある

黒く硬い
種皮に包まれた種が

いま深く深く
眠っていた

眠る種は
種であると同時に
時間でもあった

硬い種皮に包まれた
結晶化された
時であった

それ故眠る種は
遠い記憶の海を
漂っていた

種がもし
人の言葉を解したならば
己が種という名で
呼ばれることを
頑なに拒んだであろう

何故なら
種は種であると同時に
芽であり
根であり
葉であり
茎であり
花であり
実でもあるから

それら全ての形相が
結晶化された
時の内に刻まれていて
黒く硬い種皮の
内側に湛えられた
遠い記憶の海を以て
種という名による限定を
超脱していた

だが種は
人の言葉を知らず
いまはただ深く深く
眠るのみであった

そして
その内に秘められた
時の深みが
無辺なる質料の世界へ
遥かなる無限の未来へと
投射される日を
寡黙に待ち続けている

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