葡萄に栗鼠 ピロット
唐紅に染まったもみじ もみじ
ひっそり 静まり返った境内
燃えるような 赤なのに
漂うあの静謐さは 何だったのか
蒼色の天鵞絨
苔の吐息だけ響いていた
清らかな冷気に
伊達家の菩提寺 瑞巌寺
桃山様式の粋尽くし
政宗が 五年かけ完成した
都の典雅さとは異なる美
孤高な武骨さが刻まれていた
*
濃紅の落葉の如く
堆く重ねられてゆく 過ぎし月日
寺を訪ねた思い出も 薄れゆく
全ては 落葉の吹き溜まり
遠い潮路を渡る風にかき消される
音もなく心に散る もみじひとひら
赤く灯る 一つの記憶
栗鼠が一匹
複雑に絡まる 山葡萄の蔓
葉陰に身を潜め
たわわに実る葡萄を 見詰めていた
左甚五郎が彫り
欄間の中 閉じ込めた
葡萄に栗鼠 生の表象
武道に律す 伊達の魂
*
琥珀の中 姿そのままに生きる小さな虫のよう
心の底 黄昏ゆく紅葉
栗鼠は今も じっと息を潜ませている
葡萄の葉陰に
豊かな尾を 蔓と踊らせて
栗鼠は 何かを待っている……
否
心の中住む栗鼠は 絡まる蔓を器用に渡り
その小さな両手に しっかりと掴む
葡萄一粒
きっと