幸せな帰り道 朝霧綾め
幸せな帰り道
私は祈るように歩く
もう数千回目に
同じこの道を踏むはずの一歩一歩が
今日は この上なく大切なものであるような
そんな気がしてきて
虫の鳴き声も 焼き鳥屋の匂いも ねこじゃらしの手触りも
すべてが愛おしい
薄墨色の夜空を見上げれば
月が黄色く光っている
私は思わずため息をつく
一歩一歩にこめていた祈りに
さらに幸福のため息を加えて
ゆっくりと 私は歩く
踏みしめるように
味わうように
コトコトと聞こえてくる
見知らぬ人々の足音が
互いに労い 励ましあっている
薄墨色から紺色に変わっていく空には
一番星が
光りはじめた