ためらい 妻咲邦香
鞄ひとつ
胸に抱え
ためらう
でも心は決めていた
花のような生き方も似合わなかった
だから何も
言葉にはしなかった
ひとりだよ
悲しくはないよ
だけどそっちにはもう行けないから
血迷ったふりして飛び出して来たんだ
ためらいひとつ拳に握って
偽りのない今を確かめられたから
やり直そうって思えたんだ
最後の最後、そのさらに終わり
そっと明日を選んだ
やさしい家には帰らない
あたたかな窓は振り返らない
ためらいだけを話し相手に
忘れないよ
今日のこと
忘れないで
いつの日だって
私は誰かの肩の先
私は何処かの土の上
鞄ひとつ
胸に抱え、それでも
飛べない空があることも
知っている