許せないまま 江里川 丘砥
ぼくは今も
許せないままでいる
あいつの言葉も
あの人の姿も
ぼくの過去も
なにもかも
ぼくが今
しあわせじゃないからだろうか
また思い出して
怒っている
ぼくがいま
しあわせなら
笑い飛ばすのかな
思い出しもしないのかな
あいつの言葉なんて
あの人のことなんて
それきり会うこともなかったのに
どうしてあいつの言葉だけが
あの時のままのあの人が
こびりついてしまったのだろう
ぼくは今も
許せないままでいる
家を崩した台風も
山を壊した大雨も
水を干上がらせた太陽も
行く手を阻んだ雪も
みんなみんな
仕方のないことだと言ったけれど
ぼくは今も
許せないままだ
ぼくを
無碍に踏んでいった人の足
踏まれたぼくを冷笑した顔
怪我をして動けなくなったら
無理やり立たせようとした手
勇気を振り絞って生きていたら
もっと勇気を出せと言ってきた声
ぼくを蔑んで
幸せに浸っていた人を
ずっと
許せないままで
生きている
どこまでこびりついてくるのだろう
引き剥がそうとしても
血が流れるだけ
跡が残るだけ
ぼくが
しあわせになろうとするたびに
まるで傷ついたぼくが
忘れてくれるなと手を引っ張るように
動けなくなるんだ
かなしい大人になってしまったな
いつまでも許せないままなんて
悔しくて
かなしくて
情けないよな
だけど
無理に許そうとしても
もっと苦しかった
許せなくてもいいけど
しあわせになれたらいいのに
しあわせになれなくてもいいから
許さないじゃなくて
許すことは
かなしみも
苦しみも
すべて無かったことにするようで
どうしてもできない
頭では違うとわかっていても
腑に落ちない
ぼくはまだ
許すことができない
だから
無理に許さなくてもいいや
許せない気持ちを
蔑ろにしないでいよう
悔しいけれど
かなしいけれど
ぼくだけの
すこし歪で
どこかやさしげな光が
生まれている場所だから
ぼくは
もうしばらく
許せないままでいるよ