記憶 紫陽花
あなたは 泣いていた
肩を震わせて
時々鼻もつまらせて
あなたは泣いていた
あなたの記憶には
蘭を育てていた彼女
金魚を可愛がっていた彼女
そして日向のような笑顔が
あなたに向けられていた
私は笑っていた
そんなあなたを見ながら
私は嬉しかった
私の記憶には
薔薇の棘が嫌いな彼女
子供を毛嫌いする彼女
眉間に皺を寄せて
私を睨む彼女
あなたはやっぱり
泣いていた
彼女のために
私はあなたの涙が
嬉しかった
もしかしたら
私は彼女のことを
愛していたのかもしれない
そして私のことを
愛して欲しかったのかもしれない
私はもしかしたら
彼女の本当のところを
何も知らなかったのかもしれない
薔薇の花が咲いて
その棘に刺される
そんな季節に思い出す
私とあなたと彼女の
大事な記憶