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スレッドNo.2123

老人とピアノ  エイジ

その老人は
どこからともなくやって来て
小さな部屋の
ピアノの前にそっと座った
そしておもむろにピアノを奏で始めた

言葉では容易に形容できない
とても優しい旋律だった
そして転調して徐々に
旋律は次の展開に入ってゆく

やがて私は彼の弾くピアノ曲が
無上の喜びをたたえた旋律を
紡ぎだすのに気が付いた
その時老人は身体に
明るいアウラを纏っていた
この世界のものとは思えぬ
アウラで光り輝いていた

彼はまさに
どこか違う世界で生成された
彼の中に沸き起こるメロディーを
この地上で奏でるシャーマンとなった

目には見えない
けれど確かに存在するピアノの音
その音色は
遠くの世界の扉を開く鍵となり
老人は遠くの世界と
地上との媒介となり
ピアノの前で崇高に輝く

彼はもう知っているのだ
自分の肉体がもう間もなく
滅びてしまうと
桜の蕾が膨らんでいるのが
窓から見え 風に揺れている
彼は知っているのだ
もう一刻の猶予もないと

やがて彼はその
小さなピアノ曲を弾き終わった
最後の一音まで弾き終えた時
その手つきは柔らかで
指はそっと鍵盤に添えられていた

彼は全て終わったと言うように
ピアノに座ったままで
天を仰いだ
部屋に置かれたピアノから
まだ余韻の音が鳴っているようだ
部屋の時間は
静かに厳かに流れていた

編集・削除(編集済: 2023年05月20日 09:18)

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