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スレッドNo.2148

消えた人参  理蝶

放課後はいつも決まってウサギ小屋に行くんだ
風見鶏のついた立派な小屋だ
あたりは次第に暗くなって
小屋の中はあたりより一層濃く暗くなって
目を凝らさなければ君達を見つけられない

ぼくは家からこっそり持ってきた人参を
網の隙間から差し出す
すると溢れそうなほど大きな黒目を
爛々と光らせて君達はやってくる

口を忙しなく動かして人参を懸命に食べる
職員室にある古いコピー機みたいに
少しずつ少しずつ人参は
君達の口の中へ吸い込まれてゆく

夕飯のカレーは人参が少ないかもな
でもいいんだ ぼくはあんまり人参が好きじゃないから
お母さんにはきっとバレちゃいないさ
君達とぼくの秘密の7時間目だ

やがて無邪気な少年は大人になり
思い出はセピアになる
時は降り積もる 学校という場所には尚更

僕は久しぶりに学校を訪れる
生憎の雨だがウサギ小屋へ向かう
もう今はウサギは飼っていないそうだ
時代だ、知らない先生はそういった
今あるのはただの暗がりで
あの何かが潜んでいるような
背筋をくすぐるようなムードはそこにない

雨がしとしと降っている
きっとこの辺りはどこも雨降りなのに
今ここに降る雨はなぜこんなにも寂しいのか
スーパーで買ってきた人参は
いつまでもポケットの中
試しに網に差し出してみたが
網を伝った雫がただ人参を濡らすだけだ
君達はもういない
ぼくももういない

雨は降り続いている
風見鶏が泣いている気がした
気のせいだろうか

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