発光 江里川 丘砥
音もなく忍び寄る影には
振り返らず
心を突き刺した出来事にも
怒り狂わず
そこから静かに離れられる術を探した
逃げ切ることのできなかった
幼さの消えた瞳には
覇気のない濁りだけが残った
幼い頃は妙に発光していたのだろう
周りの大人に褒めそやされては
期待に応えようと
最大限に発光した
自分でも気づかぬうちに
力を使い果たしてまで発光していたことに
気づいていた人は
気づいていた私は
どれほどいたのだろう
「幼い頃に見ていた世間は幻想」と
一瞬で片付けてしまうのは残酷
大人として見えはじめた世間は
濁った灰色よりも
もっと曖昧で薄気味悪い陰鬱
その中に生きていた幼い発光体は
よほど美しかったのだろう
輝きによってたかったあとの
冷たく濁り発光しなくなった時の
丁度消えたその瞬間まで見ていた人は
誰もいなかった
幼い光にたかり
消費したあと
誰に返すこともしなかったならそれは
たかった者たちを
濁らせたはずなのに
他人事のような笑みを浮かべ
まだ光って見えるのはなぜ
光ることを失った私は
ひとり暗がりに佇んだというのに
暗い夜に
寝そべりながら
かすかに光る星を見ていた
輝きを失った瞳に映る
遠い空の向こうで発光する星
光らなくなった私を照らす
闇の中の小さなひかりを
希望のひかりを
瞬く間に奪ったのは
他人が照らした懐中電灯
その光に目は眩み
私は
一番好きなひかりを
見失った