柔らかくうごめく
銀行で順番待ちをしている母親の
腕の中で幼子が
飽きてしまったのか
体を弓のように逸らして暴れて
イスに頭をぶつけた
さっきまでの威嚇するような泣き声から本格的な大泣きに変わって
周りの大人達は小さな暴君の一大事に右往左往している
母親は大丈夫ですと
まわりに気を遣いながら
痛かったねぇと優しく撫でた
幼子よ
なぜ君は
そんなにも柔らかく産まれたのか
産まれる時の安全性向上のためかも知れないが
産まれてからが
危ないじゃないか
頭蓋骨に隙間までつくって
まだ立つこともできないうちに産まれてくるなんて
まるで産まれることさえできたなら
この世界が君を守ってくれるなんて
信じきってるみたいじゃないか
幼子よ
だから大人達は君の柔らかさに怯えて思わず手を差し出すのだ
恐る恐る君を抱くのだ
この世界を信じきっている
暴君のような君を
君は怒りながら泣く
なぜ私は自由に動いて全てを舐めて確かめられないのか
君は泣く
なぜイスは硬く私に当たったのか
ありとあらゆる納得いかないものと
その全てを忘れるほどの喜びの中で
君は世界と接触し
傷をつくり治しながら
君の細胞と世界がともにうごめくことで
この世界の声を聞いている
母親から渡されたおもちゃを振ることも忘れて