省略される 妻咲邦香
何かが起きている
その途中、通りがかる
引き止められ、足を止め、黙って見ている
途中だから見ているし、また見えてしまっている
終わりを待てず再び歩き出す
何か貰った気もするが、それが何かはわからない
役に立つのかも、わからない
知り合いに語って聞かせる
身内に聞かせるかどうかは迷う
それは既に終わっているもの
そして今はとっくに消えているもの
その姿のままを語る
それは見えない何処かで完成されたもの
味方になるのでなければ伝えようとは思わない
「あなたのことが大好きです」
それは常に省略されるし、され続ける
まだ途中なので見せたくはない
そして、それは例外なく可愛い
私はあなたを愛しています
あなたは誰かを愛していますか?
終わらせないので消えないでください
私に出来るたったひとつの祈りです
祈りは常に省略される
全部言うと余りにも長い
量も多いし、ややこしいので省略する
詳しい内容、説明など
省略されるし、され続ける
抱き締めるとその力で一部は剥がれる
くちづけなどしようものなら、四分の三は零れて落ちる
私は拾わない
だって途中でいたいから
だって完成されたくないから
ずっと可愛いままでいたいし
そのように見られていたいから
終われば、消える
消えれば終わるものとして
再び歩き出す、それぞれの道
そこから先はたったひとり、かもしれない
ありがとう
一瞬でも足を止めてくれた存在に
もう省略しなくてもいい想いを胸に
いつまでも響かせながら
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秋冬様、日本現代詩人会へのご入会おめでとうございます。素晴らしい詩です。今後の益々のご活躍を楽しみにしております。私ももっと頑張らなくては。。