闇夜だ 江里川 丘砥
憂いているなぁ
今日は闇夜だ
朝はあんなにもスッキリしていた空気が
人の憂いに当てられて
理由もなく憂いてしまった
夜に浄化してくれる月が
見当たらないんだ
月光に晒されれば
夜ごと憂いは穏やかになるというのに
月も人の憂いに当てられて
地球に留まることが
できなくなってしまった
〈月は休みます
太陽系を巡る小旅行にでも出かけてきます
月にも気分転換が必要ですから
その間 夜は月なしでお過ごしください〉
夜空にそう書き残し
月は地球の軌道から出ていった
いつ帰るのかもわからない
朝の太陽まで
人の心はもつだろうか
憂いにまみれたままでは
昼でも陽の光を
避けてしまうかもしれない
雨が降り
憂いた空気が
そこら中に叩きつけられたあと
黒い絵の具をつけたシャボン玉のように
うっすら黒く
ゆらゆら揺れながら
浮き上がる
道路から
ビルから
走る車から
むくむく浮かび上がり
大気中へ還ろうとする
人が嘆いている
この闇夜は
人がつくり出したものなのに
あれが悪い
これが悪いと
罵り合っている
こんなことでは
月はまだ
地球へ帰って来たくはないだろう
月も人も
憂いているなぁ
今日は闇夜だ