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スレッドNo.2259

誤診

それなりに成長した木なので
横たわるとベッドからはみ出してしまいそうだ
実際、回診の際
医師は枝分かれした根っこの末端を
注意深くよけながら移動しなければならない
根っこにはまだ
湿り気のある土が少なからず付着していた
患者たっての希望でそのままにしてある
人間の側からすると清潔とは言えないし
何より病室が汚れてしまうので
洗い流してしまいたいのが本音だが
せめて大地との繋がりの名残を、というのが
あちらの言い分なのだ
血圧を測る代わりに幹の中を流れる水分の量を
光合成により蓄えられた二酸化炭素の濃度を
さすがに木は穏やかで
診察の最中も大人しくしている
けれどもいったん口を開くと
思い出話は止めどない
ご存知の通り木は自ら動くことができないので
多くは傍観者として眺めた出来事である
思わず笑いを誘う話や涙なしでは聞けない話
木のくせになかなか話が上手い
その中に一つだけ
受け身ではない話があった
あるとき一人の人間が
何の断りもなくその木の
最も丈夫で太い枝に縄を固く結びつけた
縄の先は人間自身の首へ
全体重を預けるつもりらしい
空はどんより曇り
生暖かい風が吹く
噂では聞いていたが
まさか自分もそのような
奇妙な果実を実らせる日が来ようとは
枝が命の重みを感じ始めた時
発芽以来初めて
木は能動的な動きを見せる
縄が結ばれていた頑強な枝はボキリと折れ
人間はあえなく地面に
その者はしばらく呆然としていたが
情けない声を上げながら
どこへやら去っていった
最も太い枝を自ら損なってしまった木は
一晩中
森羅万象に詰られた
植物の分をわきまえぬ暴挙
他種の運命に介入する傲慢な所業
わんわん責め立てられた末に木は
それならばもう、ということで
人間の病院に身を寄せたというわけなのだ
診察結果は一両日中には出るだろう
昨今の医学の進歩は著しく
どんな種類の命であっても
的確な診断を下すことができる
若くて熱意ある医師は
ベッドに横たわる木の
思い出話を聞きながら思う
(次の回診に遅れてしまう)

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