楽団音曲選び評定―豊臣秀吉さん 五奉行くんらを招集しました 三浦志郎 6/16
―おのおの大儀 かねてより存じおろうが 聚楽第にて帝(みかど)をお迎え申し上げて
饗応音曲会(ライブミュージックパーティー)を催すことと相なった 古今最大最高の宴である
そこで おぬしら奉行を集めしは他でもない
会にて楽団にいかなる音曲を奏でさせるか おのおの 存念を申すがよい
(増田長盛くん) それがし 一策あり申す
―申してみよ
(増田) 海を越えはるばる渡来のBLUESを奏でるがよいかと
しかる後に独奏(ソロ)回し さすれば集まりし人々を極度の興奮に誘うは必定(ひつじょう)!
―なに サル回しとな? そのほう わしを愚弄するか!(秀吉さん 自分のことを言われたと思い お怒りのご様子です)
(増田) いえいえ さにあらず サルにあらず ソロ回しでござる (汗)
独奏を連鎖することにござる
(長束正家くん) いやいや 増田殿 BLUESでは汗くさい いかにも暑苦しいでござるよ
それに そもそもサル……いやソロ回しとは奏でる者の自己満足に過ぎないのではあるまいか
聴く者を置き去りにしてはなるまい
―正家 そちは違う考えがありそうじゃな
(長束) されば BLUESと同格なれど JAZZなる音曲はより幅広うござる しかも“標準音曲”(スタンダード曲)
とかあると聞き及んでおりまする それらをあまた奏でれば 帝も諸侯もお喜びになられるでありましょう
なにより”標準音曲“には親しみ深きものあり 口ずさむべき調べが多うございます
(前田玄以くん) “混交音曲”(フュージョン音楽)も下々では流行りしものと心得ます
―そは如何なるものぞ?
(前田) JAZZに入魂音楽・岩石音楽(ソウル・ロック)が入り混じったる物のようで……
かつて織田右府公(信長)が雇いし黒人(くろびと)が流行らせし音曲とか
聴いていると腰が勝手に動き出す効能があるそうな 黒田の如水殿がご愛好のようですな
―なに! 如水めが好きとな 異風好みのあやつならさもあろう さぞかし怪しげに身体をくねらせ
嬉しがっているのであろう 想像するだに不気味にして笑止千万じゃ
されど なるほど それはなかなか面白そうな音曲分野(ジャンル)よの
ふぅむ 存外 音曲とはあまたあるではないか ここが思案のしどころじゃのう
(浅野長政くん) 内府(家康)殿のお好みは如何でありましょう
―あの者は地味な男 音曲には興味なかろう 何でもテキトーに聴かせておけばよい
(浅野) 当世風(モダン)な伊達殿の御存念や如何に? あの御仁は折よく大坂屋敷におられる由
かの殿に策あらば容れるに足るでありましょう 使者を出しまするや?
―いらぬ あやつはどうも胡散臭い 忠義づらをしてわしに偽りを吹き込みかねない輩じゃ
ええい これでは決まらぬわ 三成 なんぞ 妙案はないか?
(石田三成くん) はは さすれば わが領内に今 “出雲の阿国”と称する歌舞音曲団が参っておりまする
女衆の踊りが主ですが 雄大楽団(ビッグバンド)も連れております その中に”音曲作り師“(作曲家)なる者がおりまして
平家物語風琵琶語りと今様(ポップス)を合わせし物を奏で なんでも”創り音曲“(オリジナル曲)とか呼ばれ もっぱらの評判に御座候 それがし 過日見物しましたるところ 女たちの妖艶な踊りと楽団の妙なる調べは極上の遊興事(エンタテイメント)に御座りまするぞ 上様におかれましては その者らをお召しあそばせば如何かと愚考致しまする
―それよ それよ! その物珍しさと女たちの色香こそ欲しいものよ いかにも妙案
さすがじゃ 三成 さっそく そのほう 差配せよ (やはり三成くん ご機嫌取りうまいです)
(石田三成くん) はは ありがたき幸せ いと易きこと では ただちに奉行仕りましょう
―酒肴の贅を存分に尽くせ
山海の珍味を諸国より取り寄せよ
酒は伊丹より大地が傾くほどに運ばせるがよい
今から帝のお喜びのお顔が見える気がするわい
興至らば わしも一曲歌おうぞ
踊りし後はわしの許に侍らせよ (秀吉さん そういうの お好きです)
楽団には一万石の奏楽料をはずんでやれ!
気に入れば わしのお抱え(ハウスバンド)とすべし
(五奉行くん一同) ははあ~~ (みなさん平伏しました 評定は終わりました)
*一万石の料(ギャラ)は大名級。これは驚き。楽団衆(ミュージシャン)は大人数なれど 米だけでも一生保障でお釣りあり。
*豊臣秀吉はこの音曲会の二ヵ月後に没した (架空でござるよ)。