介護の現実 2 Liszt
寝たきりになってから
母はめっきり年老いて
ぼんやりする時間が長くなり
わたしを見つめる眼も
光が乏しくなった気がする
楽しみと言えば
テレビを見ることくらい
それなのに
最近ニュースと言えば
怖ろしい事件ばかり
やれ銃撃だの
やれ強盗だの
やれ戦争だの
そのうえ台風は近づくし
地震もあちこちで起きている
そんなショッキングなニュースを見ると
母の神経は高ぶって
血圧や脈拍の値がおかしくなる
夜もよく眠れず
ついつい睡眠導入剤のお世話になってしまう
あまり飲ませたくないのだけど…
母にとって
近頃の出来事は どれもこれも
刺激が強すぎるのだ
それでも母は
世界に向かって ただ一つ開かれている この窓を
決して閉じようとはしない
なぜって わたしが
怖ろしい事件を報じているニュース番組を
気を利かせたつもりで
たわいもない おもしろおかしいバラエティに
変えようとすると
不自由な身体にもかかわらず
こぶしを振るって怒るからだ…
「なんでチャンネル変えちゃうの!
今、わたしが見てるところでしょ!」
どうやら
こちらが思うより
母の心はずっとタフなようだ
それもそのはず
九十年近く
この世の中を生き抜いてきたのだから
案外
いつの間にか心弱くなり
前向きな気持ちになれないのは
介護している
わたしの方かもしれない
弱気の色眼鏡で見るから
母の衰えばかりが目に付くのかも…
そんなことをつらつらと
考えているわたしの横で
母は今日も「正午のニュース」を
真剣な眼差しで見つめている…