サバンナを行け 山雀詩人
あっ アリ
踏みおろそうとした前足を
すんでのところで踏みとどまった
ふう 良かった
小さな命をひとつ救った
いや 待てよ
今はたまたま気がついたけど
いつもは気づいてないのかも
知らない間に踏んでるのかも
えっ だとしたら
今までいったい何匹を
知らなかった
気づかなかった
ぼくが歩いてるだけで
誰かを傷つけていたなんて
ぼくが生きてるせいで
誰かを死なせていたなんて
フクロウのおじさんが言ってたな
世の中には二種類の生き物がいる
食べる者と食べられる者
でもおまえはそのどちらでもない
そんな大きな体なのに
誰かを襲うこともなく
草を食べて生きている
それなのに天敵もいない
おまえは実に強く優しい
理想的な生き物だって
おじさん 違うよ
ぼくはそんないい子じゃない
ぼくも誰かを傷つけてるよ
ライオンと一緒
チーターと一緒
ニンゲンと一緒
どうしよう もう歩けない
こわくて足が前に出ないよ
だんだん日が傾いてきた
これからいったいどうしよう
おじさんが言ってたっけ
フクロウも狩りをするって
ネズミやトカゲを食べるって
やめたいけどやめれない
生きていくにはしかたないって
そのとおりだね
分かるよ
分かる
分からなかったけど
今こそ分かる
そうだね
〝しか〟ないね
歩くしか
進むしか
生きていくにはしかたがないね
歩くよ
がんばって
がんばって
前に進むよ
夕暮れのサバンナを
ゆっくりと
優しいゾウが
歩いていく