季節工場【夏】 秋さやか
シミの落ちないシャツ
子供が飽きてしまったスニーカー
色褪せたハンカチ
工場へ預けてある
汚れても古びても
捨てきれなかったものたち
工場裏の川のほとりで
それらが戻ってくるのを
人々は待ちわびています
工場から藍色の作務衣を着た人たちが
ボウルを抱えてやってきて
眠る赤子のようにそっと手渡します
藍に染まり すこし緑がかった
シャツやスニーカーやハンカチを
ボウルから掴みだす人々の手は
わずかに緊張しながら
川のなかへとおろしてゆきます
バシャッ
バシャッ
運び去ろうとする力と
引き寄せる力
流れてゆくものと
流れてゆかないもの
川で濯がれる布は
光を巡らす鱗のように
うねりながら
深く鮮やかな
藍色へと変わってゆきます
季節のつなぎめに
水底へ沈んだ
硝子みたいな秋の空
オルゴールみたいな冬の星
ゆりかごみたいな春の風の
断片を呼び覚まして
力強さを増す せせらぎ
脈打つ藍色を心臓として
川はどこまでも
まっさらな夏を運んでゆくのです