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スレッドNo.240

評、6/24~6/27、ご投稿分、その1。  島 秀生

お待たせしております。
残り7作は、きょうの深夜に。


●山雀詩人さん「もやもや」

ああ、飛蚊症! 私もです。
ふだん見ている軌道と、違う方の軌道を描いているのが、ホンモノの蚊なんだと思って叩きます。ややこしいです。まあ、だいたいは、空中で漂ってる時でなく、身体にとまった時に叩くので、そう困りませんが。蚊はネズミ算で増えるものなので、その一匹が、その後の何十匹、何百匹を防ぐことになるので、私は積極的にころす派です。
ちなみに、日本の蚊は病原菌を持ってることはめったにないですが、国によってはヤバイのです。世界規模で見た時に、人間をもっともころしてる動物は、実は蚊ですよ(病原菌媒介による)。

余談はそれくらいにして、作品ですが(← 余談がいつも長いねん!)、

「1から1」「1から0」の論議

パチン前=両手+蚊の体+蚊の命
パチン後=両手+蚊の体

このあたりの思考は、非常におもしろいですね。思考で語るユーモア、という感じ。このあたりの出色が、この詩を支えています。
また、終連は、
あの世に行っても楽しく暮らしてやる。あるいは、あの世になんか行くもんか。永遠に漂っててやる。みたいな意気込みがあって、ステキです。
なんていうのか、苦労の多い現代ではあるんですが、そんな中にあっても楽しみを見つける名人でありたい、と。そんな人生観を感じさせてくれます。好感が持てます。

トータルでまとめてきましたね。ちょっと甘いかもだけど、秀作プラスを。
やや冗漫な文体に見えるんですが、こう見えて不備はないんですよねえー
天井にも、窓にも、立体的に視点展開していて、作品の作り方はさすが、です。


●紫陽花さん「縫う」

ゴメンナサイ。私、波縫いしかできません・・・。
私ちょくちょく、バラの棘を手に刺してしまうんですが、たまに棘の先だけが折れて、皮膚の中に残ってしまうことがあるんです。その時、皮膚に入り込んだ棘を出すのに、皮膚をほじくるために、針は時々使ってますよ。ああ、全然、針の用途の違う話でした・・・。

子供が学校へ持って行く雑巾しか縫ったことがないって人も増えてますから、針仕事ができること自体が、凄い!と思いますよ。

作品ですが、お母さんは針仕事が得意な人で、針仕事をよくされていたから、作者が針仕事をする時、お母さんをついつい思い出してしまうのでしょうね。ある意味、最もよく思い出すタイミングが、針仕事をされてる時なのかもしれません。
そして誠に不思議なことなのですが、若い時は全然似てないと言われてたのに、歳を経てくると、なんでか親にだんだん似てきている自分に気がつきます。
目がかすむというか、老眼は、歳食うとまあ誰でもなんですが、むしろ手が似てきているのかもしれません。


針仕事は女の仕事だ
それが口癖だった母

針仕事は女の仕事だなんて
誰が決めたのか

ぼつぼつと縫い込んでいるのは
母の記憶
ぐいぐいと縫い込んでいくのは
女たちの記憶


終連の「いる」と「いく」の違いに、意志が反映されてて、とてもいいですね。
この後ろの3連は、パーフェクトと思います。

うむ、良かったですよ。また書いて下さい。
紫陽花さんは私は初回ですので、今回感想のみとなりますが、この作品はマルだと思います。


●荻座利守さん「時の窓」

これは私の、この詩への鑑賞の仕方ではありますが、
認知症がひどくなって施設に入ってた親に、話しかける時の気持ちで読みました。私が誰かもわからなくなってる親、経験した昔のいずれかの時代にトリップしたままの親を、現実・今に引き戻すために声かけしている時の気持ちで読みました。
はたして作者がその意図で書いたものかどうかはわかりませんが、私にはその図を思い起こすとピタリと嵌まる詩でした。
いい詩ですね。

ところで、この詩の4連をどう扱ったらいいのか、なんだか私に聞かれている気がする。ご本人もわからなくて、そこを解決しないまま、こっちに投げられた気がする。
私の回答としては以下です。初連から行きます。


何もない白い空間に
あなたはときどき
時の窓を切り出して
それをじっと
眺めていることがありますね

まるで自分を包む時間が
全てその窓に
吸い込まれてしまったかのように

まるであなたの発する体温も
全てその窓に
飲み込まれてしまったかのように

その微動だにしない固まった背中へ
声をかけるとき
私は
極北の氷に触れたときの
鋭い剃刀で切りつけられたような
冷たさを感じてしまうのです

その窓の内では
ときに過ぎ去った過去だったり
ときに未だ到来していない
未来だったりする時が
渦巻いているけれど
どちらにしても
そのときあなたの存在は
窓に取り込まれてしまって
あなたは時間も体温も持たない
脱け殻になってしまっているのです


5連まで、こんな感じでどうでしょう?
ドアノブを出すと「窓」とややこしくなるので、そこも別のものにしました。

なんていうか、身体はこちら側にあるのに、意識はあちら側に行ったままになる時間が増えてくる。そんな認知症が進んだ親に、声をかけ続ける。それが今・現在へと戻って来させる、打ち鳴らす鐘となるよう願う。
そんな想いを強く感じた詩でした。感動がありました。また、「時の窓」のアイデアが、単に表現ということでなく、とても想いの籠った比喩で絶妙、インパクトもあって良かった。
上記の修正案を参考に、そこ一考頂くことを条件に、名作としましょう。いや、そこできたら、代表作の列に加えてもいいかもな。感動ありました。




●麻月更紗さん「馬を飼う」

馬は足を骨折しちゃうと殺処分になるからなあー 皮膚が柔らかくて、直接寝転べないんですよ。自分で立てなくなったらアウトだからなあ。この詩はそういうことを書いてくれてるんでしょう。
(成績が上がらなくて、どこかに安く売られちゃうこともあります。牝馬はまだいいんですが、牡馬で成績の上がらない馬の末路も悲惨です。)

いなくなった馬に寄せる終連の想いはいいなあーと思って読みました。
でも、問題はその前ですね。

この詩はねえー、私、ものすごく悩まされました。
なぜなら、この詩でいう「窓」が、ものすごく謎なのです。
馬房ではふつう、馬は通路側を向いているものなので、窓はそもそもお尻側にしかないから、お尻側から見てるのか?になるし、しかも乗り越えられないように、少なくともクビから上くらいの高い位置にしかないのがフツウです。簡易な一列タイプのものでは、ドアの上・下が別々に開くようになってるものもありますが、あれの上側を窓って言うかな? 少なくとも「窓」って言われて、頭に浮かぶような形の窓ではないですから、だとしても説明は必要でしょうね。
この詩は作者がどっから見てるのか、どう馬と対面してるのか、「窓」がものすごく謎なのです。これが作者の位置を不明にしてるから、「窓」の語は抜いたほうがいいですね。馬房で直接対面してる感じで書いた方がいい。
それと対面してる時は作者の方を見てる時ですから、そのタイミングで、「池の方を見てる」なんて書いちゃダメですね。別のタイミングにしなければ。
これ、もしかしたら、馬房ではなく、もっと離れた、別の建物の窓から見てるのではありませんか? だから、馬は作者の方を見てないのではないですか? その可能性も思うし、となると作者の位置もさらに変わってくるから、やはり「窓」は書かない方がいいですね。

また、何度もそうやって訪れてる、見に来てるから、ある日いなくなったこともわかるわけですから、詩の中盤以降に、その「何度も見に来てる」感も、書いたほうがいいです。季節の移ろいでもいいし、こちらの気持ちのいろんな折に、ということでもいい。それによって、それだけ長くその馬を見てきたんだという愛着が表現できます。自分との関わり具合、愛着表現が事前にあってこそ、終連が生きてきますよ。
そうところも、ちょっと考えてみて下さい。

うーーん、たぶん、この話自体が創作で書かれてる部分が多いのだと思いますが、創作で書くにしても、場の設定が曖昧すぎるってことなんだろうと思います。
半歩前です。



● 藤代望さん「初夏の廂」

おや、スタイルを少し変えようとしているのかな? 思い切りましたなあー

 太陽光線の音がする
 弾けている

 葉脈が廂をつくると
 川縁に居場所ができた

このあたりの表現のアイデアはとてもいいです。ここは断片として評価します。
ただ、はっきり言いますが、短い詩にまとめるには技術が足りないです。この書きようでは、まだ無理です。言うと、半分以上書き直しになる感じです。
藤代さんは、ストーリーを持って、ある程度長く書いたほうがいいです。要するに、中くらいが一番書きやすいんですよ。短いのは、省略技法をわきまえてないといけないので、逆に難しいのです。
また、ストーリーを持った方がいいと言ったのは、別の意味もあって、
いい感性をお持ちですが、全部を感性で書けるほど天才ではないです。藤代さんだけじゃない。ほとんど全部の人がそうなんです。だから感性と感性のあいだは、思考(ストーリーはその人の思考でもある)で繋いで下さい。たとえば、

 僕の居場所でもあって
 他の誰かの居場所でもある
 今日は夏がそこにいた
 そこに 飛び込みたくなった

こういうところは、
①前2行は不要で、最初から、「夏」を風景の中に探したら、そこに発見したから、そこに飛び込んだ。とストーリーにするか、
②逆に1行目のみをクローズアップして、そこに自分の場所を見いだしたから、そこを私は独占する、みたいなことで、
いずれにせよ、どれか一つに成りきることで、ストーリー化したらいいと思います。

私は藤代さんは感性を生かしつつ、全体としてはストーリーで書いた方がいいと思います。実際にやってなくても、想像で成りきって、書いたらいいと思います。

最初に言った箇所だけ評価して、一歩前です。



●秋さやかさん「幼少」

篠田教夫さんの件は良かったです。へーえ、気がついてくれるもんですね。作者ご本人から褒められたら、最高の詩だったってことですよね。すばらしい!!

今回の作品なんですが、繊細な表現があるところが秋さんならではですねえー 部分的には惚れ惚れする表現がいくつかあります。
グレードが高い作品なので、そこまでできてるなら完成形にしたい私の気持ちもあって、さらに欲をかいてしまうのですが、
全体ストーリーに関わるところで2点気になるところがあります。
一点が「出口を探した」の意味合いです。これ、出口が見つかりにくいから「探す」わけですが、それは夏草の背が、自分が隠れてしまうほどに高かったからかしら? それともそこの原っぱが平面的な方向としてだだっぴろかったから、出口がわかりにくかったのかしら? 「出口を探す」前に、そのどちらかの要因を仕掛けておいた方がいいような気がします。「出口を探す」のところで、どういう探し方の図になるのか、わかりにくいのです。
もう一点は、

 最後に見た
 母さんの顔は
 笑っていただろうか
 泣いていただろうか

ここの「最後に」が、重いのです。意味がいくらでも重く取れてしまう。例えば、ここで子供時代からふっと現在の自分に戻って、現時点で亡くなってるお母さんのことを想ってるみたいにも受け取れる。「最後に」が、お母さんの亡くなった最後をも意味するようで、意味重すぎるのです。
もし「ここ(原っぱ)に来る前に見た」くらいの意味で書いているなら、そのように軽く書いてほしい。「今朝見た」くらいで。たぶん子供ごころの、親から一定時間離れると、漠然とした不安感を感じてしまうみたいなシーンに思うのだけど、
もし今言ったどれでもない事情があるならば、事情を少し書いてほしい。それは読者の想像のつかない範囲のものになるので。

大きくはその2ヵ所です。
あと細かいところ、グレードの高い、秋さんだから言うけど、

 震える鼓膜
 を伝わって
 揺れ始める胸の奥

 不器用に羽を
 馴染ませながら
 風の中へ帰ってゆく

この2ヵ所はこうでしょうね。

少し注文をつけてしまいましたが、無敵の膝小僧が充分に美しい詩ですし、

 痛そうなほど 
 あかあかと滲む
 夕暮れの空

 皮膚に纏わりつく
 生温い風が
 自分と世界の境目を
 絡めとってしまいそうで

このあたりの表現はすばらしいです。秀作プラスを。





●雪柳(S. Matsumoto)さん「海の記憶」

砂浜がなくなるについては、いくつかのケースが考えられるので一概に言えませんが、私が一番先に思ってしまうのは、東日本大震災の津波で、砂浜が消えてなくなったケースです。この詩のお話がそれかどうかはわかりませんが。

子供の頃の楽しかった思い出には、一つ象徴的な風景があるものです。その象徴的風景が今はなくなっているという消失の感覚が、2~3連における無常観を生みます。風景ですら消えるのですから、ましてや人間の命も移ろうものであり、永遠のものなどないという感慨になります。

 存在すること 生きていることは
 夕暮れがつくる影のように儚くて

この表現ステキですね。
終連はその時間軸をダイナミックに引き延ばした上で、いつか巡る再会が描かれていて、その発想や良しで、ステキな言葉が並んでて、いいセン行ってるんですが、ちと問題あるとすればここですね。

 きっと 同じ幸福な時間を刻むだろう

までは、主語は「海は」なんですが、

 いつか未来の 時のどこかで
 また会ったねと
 懐かしげに
 昔語りを聞かせるように
 時が繰り返す はるかな物語の中で

これの主語はなんでしょう? 流れで行くと、引き続き「海は」が主語でいいとこなんですが、最後の「時は」が主語に変わってるのかもしれません。もし「時は」が主語ならば、この部分は連分けした方がいいでしょうね。

もう一つの方法は、

 生まれては消える そんな中の
 もうひとりのわたしのような
 誰かの記憶

と前半でかなり曖昧な定まらないものにしているので、後半でまた、

 いつか未来の 時のどこかで
 また会ったねと

と曖昧にすると、「曖昧」×「曖昧」の構造になって、情感が定まらなくなりますよ。
もう前半で充分に曖昧にしてるので、後半は、

 時のどこかで また会ったねと

これだけでいいと思います。
こちらの方法は、ここだけ変えれば連分け不要。あとはそのままでOKです。
こちらは、最後まで主語は「海は」が、続いているという解釈になります。

でもスケール感の大きい詩で良かったです。時間かけて書いてくれてるのがわかる。
秀作プラスを。
雪柳さん、久々でした。

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