極楽 山雀詩人
まんなかがない
こんにちは は言えるけど
さようなら も言えるけど
その中間がない
「こんにちは」
沈黙
「さようなら」
いや もっと正しく言うと
「こんにちは」
沈黙
焦燥
油汗
「さようなら」
言えたらいいのに
「今日はまた一段と暑いですねえ」
世間話のひとつでも
「こないだスーパー銭湯に行きましてね
いやぁ いいもんですねえ 銭湯は」
でも言えない
なぜか言えない
気がつけば
ザ・沈黙 重い沈黙
〝沈黙〟だけに
ぶくぶく沈む
沈み沈んで海の底
僕はもう魚だろうか
ゆらゆらゆら 海中を
ふわふわふわ ひとりたゆたう
これぞスーパー銭湯だ
巨大ナチュラル温泉だ
もはや会話は必要ない
沈黙のあの苦行もない
なんて気楽な世界だろう
こんな世界があったとは
ほかの魚に出会ったら
思わずこう言うだろう
「こんにちは
いやぁ いいもんですねえ 海底は」